バックテストの最大ドローダウンは将来の最悪値ではない|更新される確率を計算する

投資・トレード

はじめに

自動売買プログラム(EA)の販売ページには、たいてい最大ドローダウン(最大DD)が載っています。「最大DD 20%」といった表記です。

この数字は、多くの場合「最悪でもこのくらい」という意味で読まれます。資金管理の前提にする方も多いはずです。

ただ、この読み方には問題があります。最大ドローダウンは「最悪値」ではなく、「これまでに観測された最大値」にすぎません。 そして観測された最大値は、観測を続ければ更新されます。

どのくらいの確率で更新されるのか。シミュレーションで計算してみました。

最大DDは取引回数とともに伸びる

勝率55%で、1トレードごとに資産が1%増えるか1%減るかする戦略を想定しました。取引回数を変えながら、それぞれ4,000回シミュレーションしています。

取引回数 最大DDの中央値 9割はこれ以下 99%はこれ以下
100回 7.7% 12.4% 18.3%
300回 10.8% 17.2% 24.3%
1,000回 15.8% 22.7% 30.6%
3,000回 20.0% 27.1% 35.9%
10,000回 24.7% 31.8% 38.5%

すべて同じ戦略です。 勝率も損益も変えていません。それでも、100回時点の最大DDは7.7%、3,000回まで回せば20.0%になります。

最大値とは「これまでに見た中でいちばん大きかったもの」です。見る回数を増やせば、それだけ大きな下落にも出会います。最大DDが小さいことは、戦略が優れている証拠とは限らず、まだ回数が少ないだけかもしれません。

これは、取引回数が少ないと勝率の推定が不安定になるという話とは別の問題です。勝率のほうは、回数が増えれば真の値に近づいていきます。最大DDは逆で、回数が増えるほど大きくなり続けます。 収束しません。

「過去の最大DD」が更新される確率

では、バックテストで観測された最大DDは、実運用でどのくらい更新されるのでしょうか。

同じ戦略を2回シミュレーションし、後半が前半を超える確率を数えました。

条件 更新される確率
検証100回 → 運用100回 50.4%
検証300回 → 運用300回 49.7%
検証1,000回 → 運用1,000回 49.7%
検証300回 → 運用900回(3倍) 76.8%
検証1,000回 → 運用3,000回(3倍) 75.1%

同じ回数だけ運用すると、約50%の確率で過去最大が更新されます。当たり前といえば当たり前で、独立した2つの期間のうちどちらの最大DDが大きいかは、五分五分だからです。

そして検証の3倍の期間を運用すれば、4回に3回は更新されます

つまり「最大DD 20%」という表示は、「20%までしか下がらない」ではなく「少なくとも20%は下がったことがある」と読むのが正確です。

なぜこの誤読が起きるのか

勝率やプロフィットファクターは、回数が増えると真の値に近づきます。だから「十分な回数で検証されていれば信頼できる」という感覚が働きます。

最大DDだけは違います。真の値に近づいていくのではなく、観測を続けるかぎり更新され続ける数字です。同じ「検証で得られた数字」でありながら、回数を増やしたときの動き方が正反対なのです。

成績表ではプロフィットファクターや勝率と横並びで表示されます。だから同じように「回数が多いほど確かな数字」と受け取ってしまう。実際には「回数が多いほど大きく出る数字」です。

販売資料でどう読むか

  1. 最大DDと取引回数をセットで見る — 100回で最大DD 8%と、3,000回で最大DD 20%は、同じ戦略でもありうる
  2. 小さい最大DDを長所と即断しない — 検証が短い可能性を先に確認する
  3. 「更新されうる値」として扱う — 表示された数字がそのまま上限ではない
  4. 計算条件を確認する — 確定損益ベースか含み損込みか、終値ベースか。定義が違えば数字も変わる

4番目は最大ドローダウンの基本で扱っていますが、計算方法が明示されていない資料は少なくありません。

なお、連敗も同じ性質を持ちます。過去最大の連敗回数も、運用を続ければ更新されます。「過去最大◯◯」と書かれた指標は、どれも同じ読み方が必要です。

この計算の前提

このシミュレーションは、1トレードごとの勝敗が独立で勝率が一定、損益が固定という仮定にもとづいています。実際の運用では前提が崩れることがあります。

相場環境が変われば勝率そのものが変わります。ナンピンやマーチンゲールを含むロジックでは1回の損失額が一定ではなく、ドローダウンの伸び方はここで示したものよりはるかに急になりえます。

したがって上の数値は目安であり、特定のEAの将来のドローダウンを予測するものではありません。示したかったのは水準そのものではなく、最大DDが回数とともに伸びるという性質です。

まとめ

  • 最大DDは「最悪値」ではなく「これまでに観測された最大値」
  • 同じ戦略でも、取引100回なら7.7%、3,000回なら20.0%(中央値)
  • 勝率やPFと違い、回数を増やしても収束せず、大きくなり続ける
  • 検証と同じ期間運用すれば約50%、3倍の期間なら約75%の確率で更新される
  • 「最大DD 20%」は「20%までしか下がらない」ではなく「少なくとも20%下がったことがある」

最大DDが小さい資料を見たときは、優秀さの証拠と受け取る前に、まず検証の取引回数を見る。順番を変えるだけで、同じ数字が違って見えてきます。

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確認手順を手元に置きたい方へ

最大ドローダウンを含む5つの確認項目は、筆者が作成した無料PDF「EA販売ページ 5分チェックリスト」(GogoJungle・0円)に、記入式のチェック表と販売者への質問テンプレート6問としてまとめています。

最大DDと取引回数・損失感度を合わせてPFを読む手順は「プロフィットファクター 7.8」をどう見るか?で扱っています。試行回数による成績の膨らみを統計的に補正する方法は「シャープレシオ 4.51」は高いのか?です。いずれも筆者が作成したPDF教材です。

※本記事は特定のEA・商品の購入可否を示すものではありません。数値例はすべて説明のための架空の例です。最終的な投資判断はご自身の責任で行ってください。

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