この記事について
EA(MT4/MT5で動く自動売買プログラム)の販売ページには、たくさんの数字が並びます。勝率、プロフィットファクター、最大ドローダウン、検証期間、収益率。
どれも成績を表す数字ですが、単独で意味を持つものはひとつもありません。同じ「勝率60%」でも、30回の取引から出た60%と1,000回から出た60%では、判断材料としての価値がまるで違います。
このページは、それらの数字をどの順番で、何に注意して読むかをまとめた案内です。各項目の詳しい説明は個別の記事に譲り、ここでは全体の地図を示します。
最初に見るのは、指標ではなく取引回数
販売ページを開いたとき、最初に探すべきは勝率でもPFでもありません。取引回数です。
理由は単純で、取引回数が他のすべての数字の確からしさを決めるからです。勝率60%と書かれていても、30回なら真の勝率は42.5%から77.5%のどこかにあります。35ポイントの幅が残っている状態で、その60%を他の商品と比べても意味がありません。
「10年間のバックテスト」といった長い検証期間は、回数の少なさを埋めてくれません。期間が担うのは相場環境の多様さ、回数が担うのは統計的な安定性で、役割が違います。
指標ごとの落とし穴
回数を確認したら、個々の指標に移ります。それぞれに固有の読み違えやすさがあります。
勝率
勝率は、平均利益と平均損失とセットでなければ収支を表しません。勝率90%でも、小さく勝って大きく負ける形なら収支はマイナスになりえます。
プロフィットファクター(PF)
PFは総利益÷総損失の比率です。分母である総損失が小さいうちは、まだ経験していない大きな負けが1回加わるだけで大きく動きます。総利益78万・総損失10万でPF 7.8でも、30万の損失が1回出れば1.95です。
最大ドローダウン
最大DDは「最悪値」ではなく「これまでに観測された最大値」です。勝率やPFと違い、取引回数が増えるほど収束せずに大きくなり続けます。検証と同じ期間だけ運用すれば、約50%の確率で更新されます。
シャープレシオ
リターンをブレで割った比率です。分子も分母も推定値なので誤差が大きく、検証1年では観測値2.0に対して真の値が0.03から3.97の範囲に収まる程度しか分かりません。年率換算の元になった足の長さでも数字が変わります。
バックテストとフォワードをどう突き合わせるか
バックテストが良くてもフォワードで崩れることがあります。原因は大きく分けて、パラメータの試し過ぎ(過剰最適化)、コスト設定の甘さ、相場環境の変化の3つです。
ここで注意したいのは、フォワードが少し悪いこと自体は劣化の証拠にならないという点です。フォワードは回数が少ないため、性能が落ちていなくても数字は上下します。バックテスト60%に対してフォワード52%という8ポイントの差は、フォワードが50回なら誤差の範囲を出ませんが、300回あれば劣化と言えます。
そして見落とされやすいのは、短いフォワードでは「悪化していない」ことも言えないことです。良く見えても悪く見えても、回数が足りなければ情報量は乏しいままです。
見落とされやすい条件:コスト
成績表には出にくいのに結果を左右するのが、スプレッド・スリッページ・手数料です。バックテストのコスト設定が実口座より甘ければ、その分だけ成績は良く出ます。
どれくらい効くかは計算できます。1トレードあたりの平均損益が、そのまま耐えられるコスト増の上限になります。総損益を取引回数で割った額を超えるコストが乗れば、その戦略は損益トントン以下に落ちます。
買った後に見る数字
運用を始めてからも、同じ考え方が使えます。
連敗が続いたとき、それが異常かどうかは勝率で決まります。勝率40%のEAなら200回のあいだに9連敗するのはごく普通で、勝率60%なら10連敗は1%程度の珍しさです。連敗の回数だけを見て慌てても、判断材料にはなりません。
統計の背景を知りたい方へ
ここまでの話は、二項分布と信頼区間という2つの道具でほとんど説明できます。仕組みから理解したい場合は次の記事が入口になります。
確認の順番(まとめ)
- 取引回数 — 他のすべての数字の確からしさを決める
- 勝率と平均損益 — 片方だけでは収支を表さない
- 総利益と総損失、最大損失 — PFがどれだけ動きやすいか
- 最大ドローダウン — 更新される前提で読む。計算条件も確認
- コスト設定 — スプレッド・スリッページ・手数料
- フォワード成績 — 期間と回数をセットで
- パラメータの試行回数 — 何通り試した中の「最良」なのか
このうち何項目が埋まるかで、成績表の読み方は変わります。すべてが揃うことは多くありませんが、どこが埋まらなかったかを把握しておくこと自体が判断材料になります。埋まらなかった項目は、そのまま販売者への質問に変えられます。
チェック表を手元に置きたい方へ
上の7項目を記入式のチェック表と質問テンプレート6問にまとめた無料PDF「EA販売ページ 5分チェックリスト」(GogoJungle・0円)を配布しています。
さらに踏み込んで、PFを取引回数・損失感度・bootstrap・フォワード成績と合わせて読む手順は「プロフィットファクター 7.8」をどう見るか?で、試行回数による成績の膨らみをDeflated Sharpe Ratioで補正する方法は「シャープレシオ 4.51」は高いのか?で扱っています。いずれも筆者が作成したPDF教材です。
※本記事は特定のEA・商品の購入可否を示すものではありません。数値例はすべて説明のための架空の例です。最終的な投資判断はご自身の責任で行ってください。

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